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見過ごされた機会:コンブ養殖場が海の富栄養化を改善する

大型藻類は炭素を吸収することで注目されています。しかし、新しい研究によると、特定の種は炭素より窒素を浄化するのに優れていることがわかりました。 文:Emma Bryce 2023年2月3日 コンブの一部の種類は、沿岸の富栄養化を一掃する素晴らしい能力を持っていることが、新しい研究で明らかになりました。 研究チームは、肥料や食料を生産するためのコンブ養殖が盛んである一方、富栄養化が問題視されているアラスカに注目しました。 2020年、アラスカ州環境保全局の調べでは、69の水域が都市の下水、流出水、漁業廃棄物などで不健康なレベルにまで汚染されていることが判明しました。このような汚染は多量の窒素を含むため、水域の富栄養化を引き起こし、「デッドゾーン」を形成します。一方で、窒素は海藻などの水生植物の栄養にもなるため、世界中で増え続けるコンブ養殖場が、環境修復の場として機能する可能性があります。 そこで、アラスカ大学フェアバンクス校の研究者らは、コンブ養殖場がどの程度環境を浄化できるか検証することにしました。3月から5月にかけての3カ月間、カラフトコンブとリボンコンブ(ribbon kelp)という2種類のコンブに着目し、沿岸の2つのコンブ養殖場から海水と海藻の組織を採取しました。研究室で海藻組織を乾燥・粉砕した後、炭素と窒素の含有量を分析し、2つの種におけるそれぞれの含有量、および関連する試料水から検出された窒素濃度と比較しました。 サンプル数は少なく、かなり予備的な研究であると研究者は注意を促していますが、それでも、いくつかの示唆に富む結果が得られています。 まず始めに、リボンコンブは特に栄養を吸収しやすいことがわかり、組織内に多く蓄積されていることも分かりました。実際、リボンコンブはカラフトコンブに比べて食欲旺盛で、窒素を87.5%、炭素を29.8%多く摂取していました。 これは、海水中の栄養素の量とも相関しており、海水中の窒素が多いほど、リボンコンブの摂取量は急激に増加していました。一方、カラフトコンブは、ほぼ一定の窒素量を維持していました。 このことは、藻の種類によって必要な代謝が異なり、それが栄養素を吸収する能力に影響を及ぼしていることを示唆しています。リボンコンブはより多くの栄養を必要とするため、より効率的に水中の汚染物質を除去することができるのです。研究者らは、この発見について他の研究結果も参照しており、ワカメ(winged kelp)などの他のコンブは、カラフトコンブの2倍窒素を必要とすることを指摘しています。 どの種が汚染を除去するのに優れているかがわかれば、養殖家がどの種を養殖すればよいかがわかるかもしれません。しかし、海藻の生態や養殖の理由など、別の側面から見ると、それも少し複雑だと研究者は指摘しています。たとえば、リボンコンブは、より生産性の高いカラフトコンブに比べて、生育期間中のバイオマスの生産量がほぼ50%少なくなります。そのため、重量で製品を販売する商業的なコンブ養殖業者にとっては、当然ながら最初の選択肢にはならないかもしれません。しかし、例えば、水産養殖には有利に働くかもしれません。アラスカ大学の海洋生態学者で、この研究の主執筆者であるShery…

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食事のテイクアウトにはプラスチックの問題があります。しかし、リユース容器は実際にどの程度役立つのでしょうか?

新しい包括的なライフサイクル分析によって、購入後に容器を返却する仕組みの利点と、容器の製造・使用にかかるコストを比較しました。わかったことは単純ではないということです。 文:Emma Bryce 2023年1月27日 リユースできるプラスチックのテイクアウト容器は、それを12回以上使用して、食器洗浄機に入れなければ、温室効果ガスの排出量、エネルギー、水の使用量が使い捨てのプラスチック容器よりも大幅に少ないことが、新しい研究によって明らかになりました。 化石燃料から新しいプラスチックを生産し1回で使い捨てるという我々が陥っている習慣よりも、リユース可能なプラスチックの方が環境に優しいのは当然のことのように思えるかもしれません。しかし、リユース可能な容器のライフサイクルを掘り下げてみると、実はそれほど単純な話ではないことが今回の研究で明らかになりました。 例えば、リユース可能な容器は、プラスチック使用量を削減するために、一部のレストランでテイクアウト容器の買取・返却する方法で使われていますが、通常、重くて厚いプラスチックで作られており、製造に多くの資源を必要とします。また、リユースするために定期的に洗浄する必要があり、レストランと消費者の自宅を往復するための輸送コストもかかります。このような要因が重なり、1つの容器の寿命が延びると、フットプリントが増加することになります。 リユース可能な容器の利点と、製造や使用にかかるコストとのバランスはとれているのでしょうか?この点が、Resources, Conservation & Recycling(資源、保全とリサイクル)の調査の焦点となりました。 この研究では、ミシガン州でレストランと消費者の間でリユース可能なテイクアウト容器の使用を試験的に行っているプログラムを対象に選びました。研究者らは、ポリプロピレンとシリコンでできた3種類のリユース可能な容器を、従来の使い捨て容器3種類と、さらに生分解できるサトウキビのパルプであるバガスでできた容器1種類と比較しました。 そして、それぞれの製造から使用後の廃棄に至るまで、CO2排出、エネルギー、水の使用を指標としたライフサイクルアセスメントを実施しました。 特にリユース容器については、製品のライフサイクル全体でどのように使用されるかを詳細に分析しました。例えば手で水洗いする場合と食器洗浄機で洗浄する場合の電気代や、洗剤の使用量を測定しました。また、消費者が容器を返すためにだけに移動する場合、つまり、新しい注文を受け取るためではなく、単に容器を返却するために移動した場合のコストも測定しました。 この包括的な分析により、リユース可能なプラスチック容器は、使い捨ての容器に比べて初期生産時のフットプリントは高いものの、これらのコストは時間とともに減少するという重要な側面が明らかになりました。…

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プラスチックをカーボン・ネガティブにー研究者らが道を切り開く

新しい研究はカーボン・ネガティブなプラスチックを作成することが可能であることを示していますが、実現にはリサイクルや炭素価格の設定以上のものが必要となります。 文:Sarah DeWeerdt 2022年12月13日 現在のトレンドと政策が変わらなければ、世界のプラスチック需要は2050年までに2倍、2100年までに3倍になり、温室効果ガスの排出量も同様に増加することが新しい研究によりわかりました。しかし、政策と計画によって、プラスチックによる環境への影響を減らすことができ、実際、プラスチックを長期的な炭素貯蔵の形態に変えることができます。 プラスチックは現在、世界の温室効果ガス排出量に占める割合が航空業界よりも大きいのですが、気候政策や社会経済発展に関する経路(Pathway)の違いによって、今後数十年の間にプラスチックが気候に与える影響がどのように変化するかということについては、これまでほとんど研究が行われてきませんでした。また、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)で用いられているモデルにも、プラスチックは組み込まれていません。 影響が大きいだけに、このような見落としは非常に残念です。「プラスチックは気候に大きな影響を与えており、プラスチックの生産・使用方法と廃棄物の処理方法を抜本的に変えなければ、その影響はさらに大きくなるだろう」と、研究チームのメンバーでユトレヒトにあるオランダ応用科学研究機構(Netherlands Organisation for Applied Scientific Research)の持続可能性研究者、Paul Stegmann氏は述べています。 Stegmann氏らは、新しいコンピュータモデルを用いて、プラスチック産業からの温室効果ガス排出を抑制するための3つの可能なシナリオを分析しました。このモデルは、プラスチックのライフサイクル全体を追跡し、原料やフィードストック、生産プロセス、エネルギー源、廃棄物管理戦略の違いによる気候への影響を評価するものです。 プラスチック産業をより持続可能なものにするための各戦略には、それぞれ利点とトレードオフがあると研究者らは学術誌Natureに報告しています。…

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科学者らが作物からより多くの油を生産することに成功ー人々の栄養強化と土地の保護に繋がる大きな一歩に

植物が種子に多くの油を蓄える秘密はWRINKLED1と呼ばれるタンパク質であることが判明しました。 文:Emma Bryce 2022年12月16日 科学者らは、大豆やピーナッツなどの作物が、より多くの油を生産するようにする遺伝暗号を解読しました。これにより、人間の食生活が豊かになり、土地の負担を軽減できる可能性があります。 現代人の食生活には、菜種、アブラヤシ、大豆、ピーナッツなどの油を含む種を作る植物が多く利用されており、タンパク質、食用油、食品添加物などの重要な供給源となっています。また、家畜の飼料としても間接的に重要であり、消費財やバイオ燃料の生産に油脂製品を使用する他の多くの産業においても重要なものとなっています。 私たちの生活はこれらの作物と切っても切れない関係にありますが、その結果、作物の環境負荷は増加しています。大豆のように熱帯地方で最もよく育つ作物は、森林破壊の危険性が高いため、環境負荷の増加が懸念されています。 しかし、Science Advances誌に掲載された研究者らの発見により、世界的に重要な作物の生産量を増やすことができ、その結果、必要な土地が少なくなることから、環境にとって大きな利益となる可能性が出てきました。 研究チームは、その鍵がWRINKLED1(WRI1)と呼ばれるタンパク質にあることを突き止めました。このタンパク質は植物の種子が生産する油の量を制御するのに役立つことがわかっています。さらに、このタンパク質が植物のDNAに結合することで、「油分の蓄積を制御する一連の指令を出す」こともわかっていると研究チームは説明しています。 また、これまでの研究から、種子に含まれる油分の量はWRI1がDNAに結合する強さと関係があるのではないかと推測されていました。そこで研究チームは、DNAとより強く結合できるタンパク質を作ることができないか検討を始めました。 研究チームは技術的に大きな一歩を踏み出し、WRI1の分子構造の全体像を描き出し、DNAと結合する部分を観察することに成功しました。そして、これらの部分がより強く結合するように改良を加えました。 このようにして、複数のバージョンのWRI1を作製し、それを植物に導入して油を生産する性質を調べました。 実験の結果、まず、改変したタンパク質では、DNAとの結合が10倍強くなっていることがわかりました。しかし、より顕著だったのは、改良型タンパク質を含む実際の試験植物では、バイオエンジニアリングによって作成された種子が非改良型の植物と比較して約15〜18%も油分を多く含んでいたことでした。この形質には遺伝性があり、植物の子孫は同じように油を生産する形質を持っていました。 今回の発見の興味深い点は、WRI1の結合部分が、油を生産する多くの種子植物で「高度に保存されている」ことです。これはつまり、異なる種で同じ特徴が見られるということを示しています。…

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熱帯林の再生において過小評価されている野生動物の重要性

飛べない哺乳類などが熱帯雨林の種子の拡散に重要な役割を担っていることが明らかになりました。 文:Warren Cornwall 2022年11月30日 巨大な樹木がそびえ立つ熱帯林を再生するには、オポッサムなどの小さな動物が重要な役割を果たします。 パナマの熱帯雨林の再生を研究している科学者らにとって、伐採地に再び種子を運ぶことにオポッサムやサルなどの生物が重要な役割を果たしていることは、意外な発見となりました。この研究で、毛で覆われたこれらの哺乳類や鳥類、コウモリが、消滅しつつある世界の熱帯林の再生に重要な役割を果たしていることが明らかになったのです。さらに本研究は、一見無関係に見える狩猟の規制などの政策が、このような動物の役割にどのような影響を及ぼすかということにも着目しています。 この研究を主導したドイツのマックス・プランク動物行動研究所の熱帯生態学者であるDaisy Dent氏は、「動物は森林再生における最大の味方である。私たちの研究は、森林再生への取り組みが単に植物群落を形成する以上のものであることを再考する必要性を示している」と述べています。 動物が植物の種子をある場所から別の場所に運ぶ重要な役割を担っていることは、以前から知られていました。ドングリを運ぶネズミは、ニューイングランドのオークの木が気候の変化に対応できるよう助けてくれます。フィリピンの山岳地帯の熱帯雨林では、果実を食べるコウモリや鳥が種子を運んでいます。しかし、伐採地の周辺に生息する生物は森林再生がどのように進むかを予測する上であまり考慮されることはありません。 このギャップを埋めるために、Dent氏らはパナマのBarro Colorado National Monumentに注目しました。パナマ運河の洪水でできた島とその近くの5つの半島からなるこの地域は、スミソニアンによって「世界で最も集中的に研究されている熱帯林」と称される巨大な実験場となっています。 今回、科学者らは28年間にわたり、さまざまな時期に伐採された森林の再生を追跡した記録を利用しました。最も古い森林は100年前まで遡り、また70年前、40年前、20年前、そして原生林も含まれています。 研究者らは、それぞれの森で1994年、2001年、2011年に、ワールドカップサッカー場の約半分の面積に生育しているすべての樹木を数えました。そして、それぞれの木に、その種子を運ぶ動物の種類を割り当てました。例えばパナマ草は、コウモリと飛べない哺乳類の両方によって種子が運ばれることが分かっています。その結果、1年間で319種の細長い茎の植物と227種の樹木を発見しました。…

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エンジニアが発電に粘着テープを使用

市販の両面テープで作った簡単な発電方法でLEDを点灯させることができるということは、低コストで持続可能な電力の明るい未来を示しています。 文: Prachi Patel 2022年12月1日 ホリデーシーズンの飾り付けに使う両面テープはもう準備できていますか?その両面テープを使って、LEDを点灯させるのに十分な電力を発電することができるかもしれません。新しい研究では、摩擦を電気に変換するシンプルで費用対効果の高い発電機を粘着テープから作る方法を説明しています。 このデバイスは、 摩擦帯電ナノ発電機(TENG)の一種であり、静電気を引き起こすのと同じ現象によって機械的エネルギーを採取するものです。しかし、より複雑な従来のものと比べて、このテープ型発電機は重量比でほぼ50%もエネルギーが多いとACS Omega誌で研究者が報告しています。 摩擦帯電とは、ある物質が別の物質と接触後に離れたときに、その物質に電荷が蓄積されることです。例えば、衣服や靴に組み込まれた摩擦帯電発生装置は、動きからエネルギーを得て、小型機器やウェアラブルセンサーに電力を供給できる可能性があります。 研究者らは、さまざまな素材を組み合わせて、発電装置をさまざまな形で作ってきました。しかし、これまでの発電装置は通常複雑で、選択した材料の表面に極小の微細なパターンを形成する必要がありました。 アラバマ大学の機械・航空宇宙工学のGang Wang教授とその同僚らは、簡単に作れるシンプルな設計を発見しました。TENGの片面は、市販の両面テープにアクリル系接着剤を塗布したもので、もう片面は、アルミニウムの上にプラスチックフィルムをコーティングしたものです。 この2つの素材を押し付け合い、引き離すことで、表面に反対の電荷が生じ、電気が発生します。より圧力をかければ、より強力な電気が発生します。Wang教授らは、テープの粘着性によって、これまで報告されている装置よりも発生するエネルギーが高まると述べています。 実験室ではマッチ箱ほどの大きさの発電機を押すと、476個のLEDライトの列に電力を供給することができました。また、レーザーダイオードを点灯させることもできます。靴の底に取り付ければ、一歩でライトを点灯させることができ、実世界での応用が容易であることが証明されました。また、TENGは堅牢で、10万回以上の圧力と分離のサイクルに耐えることができます。 研究者らは、このTENGについて、「低コストで容易な製造方法を提供することで最先端技術を進歩させることができる」と述べています。 出典:…

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様々な家電製品のコミュニケーションを可能にすることで、エネルギーを驚くほど節約できる可能性がある

研究者らは、家電製品の個々の使用を妨げることなく、エアコン、給湯器、ヒートポンプ周辺全体を調整する巧妙なアルゴリズムを開発しました。 文:Sarah DeWeerdt 2022年11月8日 エアコンが協調して運転を行うよう設定されたアルゴリズムにより、暑い日のピーク電力需要を4分の1以上削減できることが、新しい分析により明らかになりました。 研究チームのメンバーであるインディアナ州ウェストラファイエットにあるパデュー大学の機械工学者、 Kevin Kircher氏は、「今日のエアコン、給湯器、ヒートポンプなどの機器は、電力需要の急増を引き起こし、電線や変圧器、またその他の電気インフラにストレスを与える。ちょっとしたコミュニケーションと制御ロジックの変更で、こうした電力需要の急増を大幅に抑えることができる」と述べています。 また、この方法では利用者は不便に感じることなく節電ができます。これまでは、電力会社がエアコンを止めたり、設定温度を上げたりして利用者にとって不便なトップダウンの節電が主流でしたが、この方法はそれとは違います。 マサチューセッツ州ウェルズリーにあるウェルズリー大学の環境学教授であるJay Turner氏は、「これは本当にエキサイティングな研究だ」と言っています。新しい方法では、ピーク時の需要を「妥協することなく減らすことができる。温度は変わらないが、エアコンやその他の電気器具が他の方法よりも数分早く、または遅く作動するだけだ」と説明しています。 基本的な考え方は以下の通りになっています。(周期的負荷機器と呼ばれる)温度設定値を維持する機器は、近くにある他の機器から、どれだけ緊急に稼働する必要があるかという情報を処理します。そして、優先順位の低い機器、つまり温度設定値に最も近い機器は、電力負荷の合計が所定の閾値以下になるまで電源を切ります。 Kircher氏と彼の同僚は、IEEE Transactions on Power…

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遺伝子組換え微生物がプラスチック廃棄物を分解する

遺伝子組換え微生物と化学処理を組み合わせると、プラスチック廃棄物を貴重な材料に変えることができることを科学者が発見しました。 文:Warren Cornwall 2022年10月19日 発泡スチロールのカップ、コーラのボトル、ナイロン製のカーペット、ビニール袋など、プラスチックはリサイクルの世界では悩みの種です。 その最大の理由は、「プラスチック」といっても、紙やアルミとは異なり、さまざまなポリマーの集合体であることです。それぞれの用途に合わせてオーダーメイドで作られています。また、すべての製品が同じ方法で分解され、同じ小さな構成要素になるわけではありません。 そのため、どのプラスチックが同じ種類なのかということを数字で示している様々なリサイクル識別番号が必要となっているのです。テイクアウトで使った空の容器を手に「これは6番なのか、それとも違う?」と頭を悩ませたことのある人は何人いるでしょうか。ため息すら出ます。 リサイクル業者がソーダのボトルや食料品店の袋から何かをつくる前に、まず分別しなければならないことを想像してみてください。米国でリサイクルされているプラスチックがわずか5%であることも不思議ではないでしょうか。 プラスチックのリサイクルを容易にするためには、さまざまなプラスチックが混在していても、それを単一素材に変え、再利用できるようにすることが重要な課題となっています。今回、米国の科学者らが化学的な魔法と遺伝子操作された微生物を組み合わせることで重要な一歩を踏み出しました。 米国エネルギー省国立再生可能エネルギー研究所(NREL)の化学エンジニアで、この新技術を生み出したコンソーシアムの代表であるGregg Beckham氏は、「これにより、現在全くリサイクルできないプラスチックを処理できるようになる可能性がある」と述べています。 自然界で何世紀も残留する強靭なプラスチックポリマーを分解するために、研究者は何年も前から化学処理や微生物を利用することを試みてきましたが、それぞれのアプローチには欠点がありました。 化学触媒は素早く作用しますが、混合プラスチックを単一の均一な製品に変えることは困難です。結果的にごった煮のようになり、リサイクルプラスチックから新しい素材を作るにはあまり魅力的ではありません。 一方、ある種の微生物は遺伝子操作によって特定のプラスチックを代謝して特定の分子を生成することができます。しかし、こうしたリサイクルでプラスチックゴミの津波を食い止めるには、このバクテリアが作用するスピードはあまりに遅く、より耐久性のあるプラスチックには作用しにくいという二つの大きな問題があります。 Beckham氏のチームは2つのアプローチを組み合わせることによって、これらの弱点に対処しました。彼らは第一段階として、以下の3種類のプラスチックの混合物に化学触媒を作用させました。発泡スチロールに使われるポリスチレン、使い捨ての水のボトルやポリエステル製の衣類に使われるポリエチレンテレフタレート(PET)、牛乳の容器などに使われる高密度ポリエチレン(HDPE)です。これらは、リサイクル識別番号の6番、1番、2番にあたります。…

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カーボンフリーエネルギーへ迅速に移行すれば数兆ドルを節約できる可能性がある

グリーンエネルギーに関する技術のコストは急落しており、迅速に移行すれば、緩やかに移行するよりもはるかに費用を削減できる可能性があると研究者は述べている。 文:Prachi Patel 2022年9月15日 世界のエネルギーシステムを化石燃料からグリーンエネルギー技術に移行することで、少なくとも12兆米ドルを節約できることが、新しい研究により明らかになりました。 Joule誌に掲載されたこの研究は、2050年までに100%クリーンエネルギーに移行することで、化石燃料ベースのシステムよりも全体のコストが低くなることを示しています。また、クリーンエネルギーに移行することで、より多くのエネルギーを生産できるようになり、世界中でエネルギーがより利用しやすくなります。 気候変動に取り組むためには、エネルギー分野の脱炭素化が不可欠です。しかし、何千人もの命を救う可能性がある可能性のあるクリーンエネルギー技術への移行は、初期コストが法外に高いと考えられています。 しかし、オックスフォード大学の研究者らはこうしたコスト予測は間違っていると指摘します。過去のモデルは、再生可能エネルギーがどれだけ早く普及するかを過小評価し、コストを過大評価していたのです。このため、企業は再生可能エネルギー技術に投資せず、政府は化石燃料からの脱却を促進することができなかったと、主執筆者のRupert Way氏はプレスリリースで述べています。 そこでオックスフォード大学の研究チームは、過去のデータに基づいてより正確にコストを予測する確率論的モデル(probabilistic model)と呼ばれる別の方法に着目しました。研究チームは以前の研究で、石油、石炭、ガス、風力、太陽光、原子力を含む50種類の技術にこの方法を用いて検証しています。その結果、風力、太陽光、バッテリー、電気自動車、グリーン水素のコストは、主要なエネルギーモデルが予測したよりもはるかに大幅に低下していることがわかりました。太陽光発電の実際のコストは、最も野心的なモデルによる予測よりも2倍の速さで低下していました。一方、その間、化石燃料の価格は急騰しています。 今回の研究では、45年間の太陽光発電コスト、37年間の風力発電コスト、25年間の蓄電池コスト、そして水からグリーン水素を製造するための電解槽のデータを使用しました。 そして、これらの技術について確率的なコスト予測を行い、脱炭素化への移行シナリオとして「何もなし」「遅い」「速い」の3つを想定し、将来のエネルギーシステムにかかるコストを試算しました。 その予測に基づくと、風力発電、太陽光発電、グリーン水素のコストは低下し続けるとの結果が出ました。化石燃料ベースのシステムを継続する場合と比較して、グリーンエネルギーへの迅速な移行は、何兆円もの純費用を節約する可能性があることがわかりました。気候変動による損害の代償を考慮すれば、さらに大きな節約になる可能性があります。 20年以上にわたって、すべての主要なエネルギーモデルは、一貫してクリーンエネルギー技術のコストを過大評価してきたと研究者らは述べています。再生可能エネルギーはすでに化石燃料より安い場合もあり、その規模を急速に拡大すれば、コストはさらに低下します。…

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環境に優しいグリーン製品は必ずしも環境に無害ではない

洗濯用洗剤は検証された製品の中で最も毒性の高いものの一つでした。 文:Sarah DeWeerdt 2022年9月13日 多くの人は、「グリーン」とマークされ販売されている家庭用洗剤やパーソナルケア製品は、従来のブランドよりも環境への影響が少なく、これらの製品は素早く簡単に分解され無害なものになると思っています。 しかし実際はどうなのかということについてあまり研究されていません。企業秘密により、製品のレシピは開示される必要がなく、「環境にやさしい」という主張が独自に検証されることはほとんどありません。 実際、新しい研究で環境に優しい製品の中には、従来の同等品と同等かそれ以上の毒性を持つものがあることがわかりました。また環境中に放出された場合、毒性が増す可能性があることもわかりました。 研究者らは、水生毒物学(aquatic toxicology)の実験によく使われる甲殻類であるガラスエビとミジンコの幼生をさまざまな家庭用品に暴露しました。水生生物に注目したのは、家庭用品は排水や下水によって水生環境に入るのが一般的であり、家庭用品によく含まれる化学物質の中には水生生物に有害であることが知られているものがあるからです。 研究では、洗濯用洗剤、食器用洗剤、マウスウォッシュ、殺虫剤、食洗機用洗剤ジェル、オールパーパスクリーナーの6つのカテゴリーにおいて、それぞれ従来製品2種類と「グリーン」だとされる代替品1種類を検証しました。これらの製品はすべて米国サウスカロライナ州チャールストンの食料品店で購入されたもので、米国で広く消費者に提供されているものです。 そしてその結果、環境に優しいグリーン製品も従来の製品も、ガラスエビとミジンコに対して有毒であると研究者らが学術誌Environmental Toxicology and Chemistryに報告しました。 実際「グリーン」な食洗機用洗剤は、2種類の従来製品よりもガラスエビとミジンコの両方に対して毒性が高かったことがわかりました。一方、…

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小型デバイスによる解析は大規模な炭素貯留をサポートする

ラボオンチップが岩石中でどのようにガスが化学反応を起こすのか、高時間分解能とスケールで明らかになりました。 文:Prachi Patel 2022年8月11日 地球温暖化による壊滅的な被害を防ぐために、国連などの機関は二酸化炭素を閉じ込め、貯留する技術を緊急に拡大するよう呼びかけています。 そのためには大量の二酸化炭素を回収し、地下の岩盤に注入しなければなりません。しかし、このプロセスの長期的な有効性と信頼性についてはまだよくわかっていません。 スタンフォード大学の科学者らは、地下への大規模な貯留の影響を評価するために小さな装置に注目しました。これはラボオンチップ、あるいはマイクロ流体デバイスと呼ばれ、物質の物理や化学を微視的スケールで研究するためによく使われるものです。研究者らは現在、この装置に頁岩(けつがん)の微小片を入れ、ガスや酸にさらされたときに岩石がどのように反応し、変化するかということについて研究しています。 Proceedings of the National Academy of Sciences誌に掲載されたこの研究の結果は、特定の地質場所に貯留された二酸化炭素、その他のガスや廃棄物がどのようになるかということを評価するための情報になります。 炭素回収と貯留は世界中で増加しており、すでに30の大規模プロジェクトが稼動しており、少なくともその3倍が計画されています。これらのプロジェクトのほとんどは、塩水帯水層や油性・ガス井に温室効果ガスを閉じ込めています。…

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糖に分解できる廃棄物系バイオマスを原料とする強靭なプラスチック

安価な材料で作ることができ、従来の食品包装用プラスチックと同じように高温に耐え、また食品に有害なガスを遮断することができます。 文:Prachi Patel 2022年7月21日   プラスチック汚染に対処するためには、プラスチックの使用量を減らし、リサイクルを促進する必要があります。しかし、プラスチックは現代の生活には欠かせないものとなっています。そこで、研究者はプラスチックの欠点に対処するもうひとつの方法として、強度を持ちながらも自然界で分解可能なプラスチックを作ることに取り組んでいます。 最新の取り組みはスイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)のチームによるもので、彼らは非食用植物から環境中で無害な糖に分解されるプラスチックを作りました。このプラスチックは従来のプラスチックに非常に近い特性を持っているため、食品や飲料の包装に適しています。強度があり、高温に耐え、食品を傷める酸素などのガスを遮断することができます。 現在市販されているバイオプラスチックは、トウモロコシのデンプンやサトウキビから得られる糖類を原料としているのが一般的です。しかし、その特性は化石燃料由来のプラスチックと真っ向から競合できるものではありません。高価であることに加え、高温に耐えられない、さまざまな形状に引き伸ばすことができない、ガスを遮断することができない、など様々な課題があります。また、自然界では従来のプラスチックと同じように分解が困難な場合も多くあります。 2016年、EPFLの研究者らは、植物の木質で食べられない部分からプラスチックやバイオ燃料に価値のある分子を作る方法を発見しました。彼らの研究は植物の細胞壁に含まれ、植物に剛性を与える長鎖状の分子であるリグニンに着目しています。リグニンは地球上で2番目に多く存在する天然物質ですが、農業や製紙業から排出される廃棄物でもあります。EPFLの研究チームは、一般的な化学物質であるホルムアルデヒドを加えることで、リグニンを有用な分子に変えることができることを発見しました。 Nature Chemistry誌に掲載された新しい研究では、上記の研究をさらに発展させています。新しい研究では、ホルムアルデヒドの代わりにグリオキシル酸を用いて、リグニンをプラスチックの主要な構成要素に変換しています。その結果、農業廃棄物の重量の最大25パーセントをプラスチックに変換することができたと報告しています。 このプロセスはシンプルで拡張性があり、安価な無機酸を触媒として使用するものであると研究者は報告しています。また、グリオキシル酸は工業的に入手可能な安価な化学物質です。 実験室でのテストでは、従来のプラスチックと同様に100℃の高温に耐えることができました。また、強度や剛性も同様の結果を示しました。さらに、包装用フィルムや、紡いで布にする繊維、3Dプリンター用のフィラメントに応用することができました。 この素材は化石由来のプラスチックと同じように化学的にリサイクルすることができます。また、環境中に廃棄されたとしても、最終的には常温の水中で構成要素である糖に分解されます。このプラスチックは、安価で持続可能なプラスチックとして有望視されていますが、「このポリマーの環境動態を完全に理解するには、毒物学的および生分解性に関する詳細な試験が必要である」と研究グループは書いています。 出典:…

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