海水中でプラスチックを分解する海洋バクテリアを世界で初めて開発

研究チームは2種のバクテリアの主要な形質を組み合わせることで、塩分の多い条件下かつ室温でプラスチックを分解できる新しいバクテリアを作り出しました。

文:Prachi Patel
2023年9月21日

毎年1,400万トン以上のプラスチックごみが海に流れ着き、それを食べた何千もの動物や鳥が命を落としています。多くは巨大なゴミの塊となり、時間の経過とともに海洋生物に有害な微細な破片に分解されています。

この海洋プラスチック汚染問題にとって希望の光となる新しい研究が発表されました。ノースカロライナ州立大学の研究者らが、海水中で一般的に使用されているプラスチックを分解する海洋微生物を遺伝子工学的に操作したと、AIChE Journal誌に報告しています。

ポリエチレンテレフタレート(PET)は、ペットボトルや食品包装、衣料品などに使用されるプラスチックの一種です。多くのPETプラスチック廃棄物はリサイクルされず、埋立地や水生環境に行き着きます。PETは最終的に回収の難しい5mm以下のマイクロプラスチックに分解され、水中、陸上、大気中の環境を素早く移動することが示されている、と研究者たちは論文で指摘しています。

プラスチックを分解する能力を持つ微生物も見つかっています。研究者らは、プラスチック廃棄物を有用な化学物質に変換するためにバクテリアが産生する酵素あるいはバクテリアを遺伝子操作しました。ノースカロライナ州立大学の研究チームは、このような以前に改良された生物には、「高濃度の塩分によって成長が阻害される」という重要な限界があると書いています。これはマイクロプラスチックを分解する前に大量の水を用いて回収し、洗い流さなければならないことを意味しています。

そこで研究チームは、2つの異なる種類のバクテリアを利用するという違うアプローチを取りました。一つ目のバクテリアはビブリオ・ナトリエゲンスというもので、海水に生息し、理想的な条件下では10分以内にその数が2倍になるという繁殖が非常に早いものです。もうひとつはイデオネラ・サカイエンシスというバクテリアで、PETを分解する酵素を生産するものです。

研究チームは、この酵素を生産するイデオネラ・サカイエンシスのDNA配列を単離し、ビブリオ・ナトリエゲンスに挿入しました。するとこの改変されたビブリオ・ナトリエゲンスは、細胞の表面でPETを分解する酵素を産生することができました。さらに、ビブリオ・ナトリエゲンスは室温の塩水環境でPETを構成要素に分解できることもわかりました。

「実用的な観点からは、これは海水中でPETマイクロプラスチックを分解することができる、我々が知る限り初めての遺伝子組み換え生物だ」と、博士課程の学生で論文の筆頭著者であるTianyu Li氏はプレスリリースで述べています。さらに、「海からプラスチックを取り出し、高濃度の塩分を洗い流してからプラスチックを分解するためのプロセスを開始することは経済的に実行可能ではないため、これは重要な発見である」と指摘します。

研究者らは、まだやるべきことはたくさんあると言っています。研究チームは現在、ビブリオ・ナトリエゲンスを改良して、PETを分解する際に生じる副産物を餌にできるようにし、最終的に有用な化学分子を生産することを計画しています。

出典: Tianyu Li, Stefano Menegatti, Nathan Crook. Breakdown of polyethylene therepthalate microplastics under saltwater conditions using engineered Vibrio natriegens. AIChE Journal, 2023