AIが設計した酵素がプラスチックゴミを数日で分解

新しい酵素は、従来のものよりも低温で機能するため、より環境に優しく、より速く作用し、より安価な選択肢となる

文:Prachi Patel
2022年5月5日

世界で毎年生産される約4億トンのプラスチックのほとんどは埋立地や自然環境で分解されるまでに何世紀も放置される可能性があります。

研究者らは、人工知能(AI)の力を利用して、一般的に使用されているプラスチックをわずか1日から2日で分解できる酵素を設計しました。Nature誌に掲載されたこの酵素は、繊維や食品・飲料の包装によく使われるポリエチレンテレフタレート(PET)を化学的構成要素に分解します。

研究者らはまた、この分子を再びPETプラスチックにリサイクルできることを明らかにしました。このことは酵素を用いたプラスチックのリサイクルを工業規模で実現できることを示すものだと研究チームは述べています。テキサス大学オースティン校の化学工学教授で、この研究の共著者であるHal Alper氏は、「この研究がプラスチックの循環型経済を実現する方法を確立するきっかけになれば良いと思う」と言っています。

研究者らは2005年に、ヒドロラーゼ(加水分解酵素)と呼ばれる一種の酵素が、PETプラスチックを構成する長く強く結合した分子鎖を切ることができることを初めて明らかにしました。それ以来、同様の働きをする他の酵素がいくつか開発されています。フランスのスタートアップであるCarbiosは現在、人工のバクテリア酵素を使ってPETプラスチック廃棄物をリサイクルする産業施設の建設を計画しています。

しかしながら、これまでの酵素を使った方法のほとんどは高温が条件として必要となっていました。これに対し、新しい酵素は室温に近い温度で作用するため、エネルギー消費量が少なく、コストも低く抑えられます。また「既存の他の酵素と比較しても迅速に作用する」とAlper氏は言っています。

Alper教授と彼の同僚らは、まず、ある種の細菌が生産するPETaseと呼ばれる酵素から研究を始めました。この酵素は常温でPETを分解すると知られていますが、約24時間経過すると効果がなくなってしまいます。他の研究者は、この酵素をより強固にするために工学的に改良しようとしましたが、あまり効果的ではありませんでした。

そこでUT Austinの研究チームは、どの酵素に変異を加えれば低温でより速く作用するようになるかを見極めるため、機械学習アルゴリズムを活用しました。そして、この変異型酵素をつくり、51種類の使用済みプラスチック容器で試してみました。すると、酵素は48時間以内にペットボトルや容器を完全に分解し、場合によっては1日以内に分解したものもあったのです。

Alper氏は、現在「このプロセスを工業的な条件下でスケールアップする方法と、この同じタイプのアプローチを他のプラスチック資源に適用する方法を評価しているところだ。世界のいくつかの企業が大規模な酵素解重合を検討し始めているので、この研究はかなり有望だと思う」と言っています。

出典: Lu, H., Diaz, D.J., Czarnecki, N.J. et al. Machine learning-aided engineering of hydrolases for PET depolymerization. Nature, 2022.