1,500キロを旅した小さなペットボトルキャップ、307もの生物が“ヒッチハイク”

科学者たちは、同位体化学と海流モデルを駆使して1個のプラスチック製キャップの旅路を解明しました。そこから明らかになったのは、海洋ごみが外来種のいかだになっているという事実でした。

文:Warren Cornwall
2026年7月15日

時に、大きな物語はとても小さな物体から語ることができます。

海洋プラスチック汚染がもたらす危険性と、日本近海の太平洋を漂うたった一つのペットボトルキャップについて考えてみましょう。

2023年、日本の調査船に乗った科学者たちが、海中の網にこのキャップを捕らえ調べたところ、このプラスチックキャップは、何百もの生物が暮らす小さな生態系へと姿を変えていたことがわかりました。科学者たちは綿密な調査によって、そのキャップが南方のはるか遠くにある熱帯の海域から、そこに付着した生物たちとともに流れ着いた経路を解明しました。

この発見は、学術誌 『Marine Pollution Bulletin』に掲載された新しい論文で報告されています。この研究は、プラスチックであふれつつある海で生物がどのように適応しているのか、そして、浮力を持ち、ほとんど朽ちることのないプラスチックごみが、外来種にとっていかだとして機能する可能性を示しています。

「通常は南方の熱帯海域に生息している生物が見つかった。いくつかの種は、私たちが気づかないうちに生息域を拡大している可能性がある」と、名古屋大学の科学者で本研究の筆頭著者である自見直人氏は言います。

海を漂うプラスチックが、生物を運ぶいかだになり得ることは、以前から懸念されてきました。よく知られている例として、2011年の東日本大震災による津波で流された日本の漂流物が、北米沿岸に漂着した際、約300種もの沿岸生物を運んでいたことが挙げられます。科学者たちは、外洋を漂う小さなプラスチックの島々が、それ自体で新しい生態系を形成しているのではないかと推測しています

今回のペットボトルのキャップの場合、その生態系は直径わずか35ミリメートルでした。それにもかかわらず、科学者たちがキャップを詳しく調べたところ、そこには9つの分類群に属する307個体もの生物が生息していたのです。なかでも特に驚くべき発見だったのが、Eunice bipapillata という多毛類の一種でした。この生物は海底に生息するミミズのような生物で、ムカデのように細長く平たいリボン状の体に、何十本もの短い脚が並んでいます。

このミミズのような生物は、身を守るための粘液でできた殻を作っていました。そしてその殻がさらに別の海洋生物たちが定着する足場となり、科学者たちが「ミニチュアのサンゴ礁」と表現するような小さな生態系が形成されていました。そこに暮らす生物の種類から、このキャップがどこから来たのかについても手がかりが得られました。このミミズのような生物は通常、西部太平洋の熱帯海域に生息している種でした。

さらに一部の生物を詳しく分析すると、それらのキャップがどのような経路をたどってきたのか、より詳細にわかりました。一般に有孔虫(forams)として知られる微小な生物の殻には、その殻のそれぞれの部分が形成された時期の周囲の海水温度が記録されています。これは、年輪が降雨量に応じて年ごとに変化するのとよく似ています。このことで、科学者たちは殻のさまざまな部分に含まれる酸素の2つの同位体の比率を測定することで、その殻が形成された当時の海水温度を推定することができるのです。

2つの有孔虫の殻を分析したところ、これらの生物がより暖かい海域から、より冷たい海域へ移動してきたことが明らかになりました。海水温は、最高で約30℃に達した後、約22℃まで低下しており、これはそのキャップが発見された場所の海水温とほぼ一致していました。

科学者たちはさらに、地域の海流を再現したコンピューターモデルを使って、その移動経路を詳しく追跡しました。海に小さな物体を投下し、それが実際にキャップが発見された場所に到達するまでの経路をシミュレーションしたところ、出発地点はフィリピンであった可能性が高く、約70日間かけて1,500キロメートル以上を漂流したことが明らかになりました。しかも、その経路は、キャップに残されていたある痕跡とも一致していました。その痕跡をたどると、フィリピンの飲料ブランドに行きついたのです。

今回の発見は、「海洋プラスチック問題は、景観への悪影響、誤食、絡まりといった観点だけでなく、生物地理学や外来種のリスクという観点からも考える必要がある」と自見氏は指摘しています。

現在、すでに推定3,000万トンのプラスチックが海洋を漂っているとされ、そこには毎日のように新たなプラスチックが流れ込んでいます。つまり、海にはこれからも、「ミニチュアのサンゴ礁」へと姿を変えるのを待っているペットボトルのキャップが、途方もない数存在することになります。

出典:Jimi, et. al. “Multi-proxy reconstruction of bottle-cap rafting using biofouling communities, stable isotopes and drift modeling.” Marine Pollution Bulletin. July 7, 2026.

画像:Inside a 3.5 cm plastic bottle cap: A miniature ecosystem of 307 organisms drifted from the Philippines to waters south of Japan.© Sugashima Marine Biological Laboratory, Nagoya University