ヒトデ大量死の原因が判明、次のステップは回復へ
史上最大規模の海洋生物の病気の原因が特定され、研究者らはこの重要な捕食者たちを保護し、再導入するための新たな手がかりを得ました。
文:Warren Cornwall
2025年8月13日
過去十数年にわたり、科学者たちは数十億もの命を奪ってきた「殺し屋」の正体を追い続けてきました。そしてついに、その正体が明らかになりました。
2013年、オリンピック国立公園の研究者たちは、まるでヒトデの大虐殺のような現象を報告しました。それは、腐敗した体から四肢が分離したムラサキヒトデの姿だったのです。これは、メキシコからアラスカにかけて沿岸全域に広がる水中の疫病の最初の兆候となりました。
数年のうちに、「ヒトデ衰弱病」と名付けられたこの謎の病状によって、数十億ものヒトデが全滅しました。これは外洋で確認された中で史上最大の感染症の発生として宣言されました。そして20種以上のヒトデに壊滅的かつ凄惨な影響をもたらしたのです。ヒトデはバラバラに崩れ、腕が逃げ出そうとするかのように這い出し、やがてドロドロの液体へと溶けていったのです。
自転車の車輪ほどの大きさの多くの腕を持つヒマワリヒトデは最も深刻な被害を受けた種の一つで、アメリカの沿岸海域では個体数が99%も減少しました。その結果、国際自然保護連合(IUCN)から「深刻な危機(CR、近絶滅種)」に指定されました。
科学者たちはこの壊滅的な被害の背景にある原因を解明しようと苦闘しました。当初、ある種のウイルスが原因ではないかと疑われましたが、それは誤りであることが判明しました。海水温の上昇が一因かと考えられましたが、それだけでは説明がつきませんでした。
2021年から、カナダとアメリカの科学者たちは原因を突き止めるため、4年間にわたる大規模な調査を開始しました。そして先週、彼らは『Nature Ecology & Evolution』誌で結果を発表しました。原因はVibrio pectenicidaという細菌で、コレラからホタテ貝の大量死を引き起こすことで知られる、特に厄介な病原体の一種であることがわかりました。
この発見は、海中林など多くの沿岸生態系の要であるヒトデを保護・回復する方法を見つけるための重要な第一歩になります。また海中林は衰退しており、その一因は、かつてヒトデの餌であったウニに食い荒らされていることにあります。「今回、病原体を特定したことで、この疫病の影響を軽減する方法を検討し始めることができる」と、研究に携わるブリティッシュコロンビア大学の科学者Melanie Prentice氏は述べています。
この捜査には、何年にもわたって病気の原因を丹念に絞り込む作業が含まれており、その多くはワシントン州にある水系感染症の取り扱いに対応したアメリカ地質調査所の研究所で行われました。
まず科学者たちは、健康なヒトデに病気を感染させるため様々な方法を試しました。感染したヒトデがいる水槽に入れる、病気のヒトデがいた水槽の水を加える、感染した個体の組織を他のヒトデに注入するといった方法です。しかしいずれの方法も致命的であることがわかりました。50匹の健康なヒトデのうち、46匹が死亡したのです。
研究者たちは、ヒトデの血液に例えられる体腔液(coelomic fluid)と呼ばれる物質に注目しました。感染したヒトデから採取した体腔液を注入されたヒトデは病状を示しました。しかし、熱処理によって生きた微生物を死滅させた体腔液を投与されたヒトデは健康なままでした。
健康なヒトデと病気のヒトデの体腔液中のDNAを精査したところ、病気のヒトデにはビブリオ菌由来のDNAが多く含まれていました。
「感染したヒトデと健康なヒトデの間にある体腔液を調べたところ、基本的に異なる点はただ一つ、ビブリオ菌だった」と、ハカイ研究所(Hakai Institute)およびブリティッシュコロンビア大学の海洋疾病生態学者Alyssa Gehman氏は述べています。「私たちは皆、ゾクっとしました。『これだ。ついに見つけた。これがヒトデ衰弱症の原因だ』と思った」と語っています。
最終的な検証として、研究者たちはこの細菌の純粋なサンプルを精製し、それを6匹のヒマワリヒトデに注射しました。一方、別の6匹には高温で不活化した細菌を投与しました。生きた細菌を投与されたヒトデはすべて死亡しましたが、熱処理された細菌を投与されたヒトデはすべて生存しました。
「私にとって、これはこの10年で最も重要な発見だ」とワシントン大学の生態学者であり海洋生物に関する著書を多数執筆しているDrew Harvell氏は言います。「驚くべきことに、答えはまさに目の前にあったのだ。このビブリオ菌ははとても厄介なもので、他の細菌のように組織学では検出されないのだ」と語っています。
熱などの他の要因も関与している可能性があります。この病気がどのようにしてこの沿岸地域のヒトデに広がったのかは、まだわかっていません。ビブリオ菌は一般的に温暖な環境で繁殖しやすいことが知られています。実際、科学者たちはビブリオ菌を「気候変動のバロメーター」と呼んでいます。
今回の新たな発見は、科学者たちが「治療法」を見つけられるということを意味するわけではありません。しかし、この病気に対する耐性を持つヒトデを見つけるための研究を進める手がかりになります。また今では、水や組織のサンプルを採取することで、自然界での発生状況を監視できるようになりました。これにより、実験室で育てたヒトデをどこに放流すれば生存の可能性が最も高くなるかを判断する手がかりとなるかもしれません。
「今回の発見は、この種の回復に向けた解決策を開発できる研究者のネットワークを拡大する、非常に希望に満ちた道を切り開くものだ。そして私たちは、病気への抵抗力と遺伝的関連性、飼育下での繁殖、飼育下で育てられたヒトデを野生に戻す実験的導入について、積極的に研究を進めてる」と、この研究に資金提供を行ったネイチャー・コンサーバンシーのカリフォルニア支部海洋科学部門責任者の、Jono Wilson氏は述べています。
出典:Prentice, et. al. “Vibrio pectenicida Vibrio pectenicida strain FHCF-3 is a causative agent of sea star wasting disease strain FHCF-3 is a causative agent of sea star wasting disease.” Nature Ecology & Evolution. Aug. 4, 2025.
画像: Wasting cookie sea star near Calvert Island. courtesy of Grant Callegari/Hakai Institute
DATE
October 6, 2025AUTHOR
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