シンプルな技術で船舶の排出量を半減できるかもしれない

研究者らは、石灰石と海水を組み合わせ、船舶の排気ガスから排出されるCO2を安定性の高い重炭酸塩に変換する船上システムを開発しました。

文:Anthropocene Team
2025年7月3日

世界経済は世界中に商品を送ることに依存しています。しかし、海運業は二酸化炭素を多く排出しており、世界の炭素排出量の3%を占めています。このままの成長率が続けば、海運業は2050年までに世界の炭素排出量の約10%を生み出す可能性があります。

海運もまた、飛行機と同様、脱炭素化が極めて難しい分野です。しかし、科学者たちはこのほど、海が自然に二酸化炭素を吸収するプロセスを模倣し、船舶の排出量を半減させる新技術を開発しました。この新技術は船舶に搭載され、船舶の排気ガスから発生する二酸化炭素を重炭酸塩に変換します。この重炭酸塩を多く含む水は自然界にも存在し、数万年にわたって安定しているため、海に戻すことができます。

「これの何が素晴らしいかというと、シンプルであることだ」と南カリフォルニア大学(USC)のWilliam Berelson教授(地球科学)はプレスリリースで述べています。この研究は Berelson教授とカリフォルニア工科大学(Caltech)のJess Adkins教授(地質学・惑星科学)が主導し、その成果は『Science Advances』に掲載されました。

海運業界は、バッテリーや持続可能な水素アンモニア燃料の利用を試験することで、より環境に優しい業界を目指そうとしています。しかし、これらの技術は依然として高価であり、燃料は必ずしもクリーンな資源から得られるとは限りません。

クリーン燃料が実現するまでは、船舶が排出する二酸化炭素を削減する必要があります。そこでUSCとカリフォルニア工科大学のチームは、自然のメカニズムを加速させるルートを考案しました。海は、大気から大量の二酸化炭素を自然に吸収します。また二酸化炭素が水と反応すると炭酸になります。この炭酸は不安定で、分解されて安定した重炭酸イオンになります。

研究者たちが開発したシステムでは、船の排気ガスが船内に汲み上げられた海水と混ざります。二酸化炭素は水と反応して酸を生成し、その後、石灰岩の上を通過し、酸は石灰岩と反応して重炭酸塩を生成します。このように処理された重炭酸塩を含む水は、再び海に戻すことができます。

実験室で化学反応を小規模にテストした結果、このシステムは予測通りに機能することがわかりました。研究者たちはまた、重炭酸塩を多く含む水が海に放出された場合に何が起こるかを分析するために、コンピューターシミュレーションを実施しました。このモデルでは、中国とロサンゼルスを10年間継続的に往復する船を想定しています。その結果、放出された水が海洋のpHと化学的性質に与える影響は1.4%未満であり、二酸化炭素の排出量は50%減少することがわかりました。

Adkins教授はスタートアップ企業、Calcareaの共同設立者兼CEOで、現在、商業船会社との試験導入に向けた協議を進めています。

出典:Sijia Dong et al. Potential of CO2 sequestration through accelerated weathering of limestone on ships. Sci. Adv., 2025.
画像:Ian Simmonds on Unsplash