多くの人は気候変動が起きていると信じているにも関わらず、ほとんどの人は行動を起こさない。なぜなのだろうか?
炭素排出量に関する現状を変えられない人々の心理的障壁を克服するために、この新しい研究は何が有効で何が有効でないかを体系的に調べました。
文:Sarah DeWeerdt
2025年5月27日
将来について、特に自分自身と自分の大切な人々の将来についてもっと考えてもらうことが、気候変動に対する行動意欲を高める最も効果的な方法だと新しい研究が示しています。この研究では、二酸化炭素排出量に関する情報の閲覧から、環境に配慮した行動が各個人にどのような利点をもたらすかを考えるブレインストーミングに至るまで、気候変動への対策に人々の意欲を高めるための17の異なる戦略について試しました。
これまでは、このような戦略に関する研究のほとんどは、一度にひとつの介入方法を試して、それが有効かどうかを確かめていました。しかし、これにより異なる研究間の結果を比較することが難しくなっていました。しかし、研究者たちは現在、何が効果的かだけでなく、人々が炭素排出の現状を変えられない心理的障壁を克服するために何が最も効果的か、体系的に調べ始めています。
この新しい研究は、「戦略トーナメント」の一例であり、気候変動に関する複数の介入方法を同じ方法論を用いて同時に試す新しい研究デザインを使っています。研究者たちは、米国在住の成人7,624人をオンライン調査で募集しました。参加者は17の介入グループと対照グループのいずれかに無作為に割り付けられました。各介入グループは、気候行動を動機付けるための異なる心理的戦略を試しました。
介入策の効果を測定するため、研究者たちは参加者に、気候変動に関連するさまざまな行動に参加する頻度、今後多く参加する予定があるのか、またあまり参加する予定がないのか、さらに多くの人がその行動に参加したらどの程度有益だと思うかを尋ねました。
さらに参加者は、気候変動に関する5つのニュースの見出しと3つの嘆願書を閲覧し、その情報をソーシャルメディアで広く共有する可能性と、知人に直接共有する可能性の両方について質問を受けました。
研究チームのメンバーで、フィラデルフィアにあるペンシルバニア大学のコミュニケーション神経科学研究室(Communication Neuroscience Lab)と科学・持続可能性・メディアセンター(Penn Center for Science, Sustainability, and the Media)の博士研究員、Alyssa Sinclair氏は、「この研究により、人々に気候変動の未来を想像させること、特に自分自身や親しい他人を巻き込んだシナリオを想像させることが、行動意欲を高める最も効果的な方法であることを発見した」と言います。このような未来志向の介入には、将来、気候変動による悪影響を自分が経験することを想像することや、人々が住める地球を確保するために実施した取り組みについて、大人になってから読めるように子どもに手紙を書くことなどが含まれます。
「気候変動に関するニュースや嘆願書を共有する意欲を高めるには、気候変動を自分自身や自分の大切な人に関連づけるよう促すのが最も効果的だった」とSinclair氏は指摘しています。これは例えば、子どもへの手紙や、気候変動に関するニュースの見出しがなぜ自分や知人に関係があるのかを参加者に説明してもらうことなどでできます。
この研究結果は、米国科学アカデミー紀要に掲載されました。
気候変動対策の有効性に対する人々の認識を高めることを目的とした介入は、この目標を達成したものの、実際には行動そのものを促すものではありませんでした。「以前の調査では、知覚されたインパクトは、環境に良い行動をとる意思と関連していることがわかった。しかし、これらの結果は、知覚されたインパクトを高めることは役に立つかもしれないが、行動の動機付けには必ずしも必要でも十分でもないことを示唆している」とSinclair氏は説明します。
研究者たちはまた、個人の二酸化炭素排出量に関する情報を提供することは気候変動コミュニケーションの戦略として頻繁に実施されているにもかかわらず、行動や情報共有を促すのに効果のない介入策であることを特定しました。
子どもに手紙を書くことは、63カ国で11の異なる気候変動に関する介入策を試した、最近の別の研究でも効果的な戦略として浮上しました。その研究では、気候変動や気候変動対策に懐疑的な傾向のある米国の政治的右派の人々にとっても、手紙を書くことは効果的であったと指摘しています。
この新しい研究では、参加者は全員気候変動の存在と人為的な原因を肯定する、つまり米国の政治的左派の立場を取る人々でした。「現在進行中の研究では、リベラル派にも保守派の人々にとっても有効な介入策を模索している」とSinclair氏は言っています。研究者たちはまた、人々の意図だけでなく、日常的な行動に対する介入の効果を測定する方法も模索しています。
出典:Sinclair A.H. et al. “Behavioral interventions motivate action to address climate change.” Proceedings of the National Academy of Sciences 2025.
画像:©Anthropocene Magazine, AI-generated
DATE
June 18, 2025AUTHOR
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