世界中の人々に必要な食料を生産し、炭素を貯蔵するのに十分な土地は地球上にあるのだろうか?
新しいモデル研究によって導き出された驚くべき答えは「イエス」でした。
文:Emma Bryce
2024年11月22日
土地利用は、大量の二酸化炭素を閉じ込め、気候目標を達成するための最良の手段のひとつです。しかし、土地を利用することは、食料を生産するためにも不可欠です。この2つの需要は共存できるのでしょうか?
『Frontiers in Environmental Science』誌に掲載された新しい研究によれば、驚くべきことに、答えはイエスでした。この研究では、食料生産を増やし、生息地を保護し、何トンもの炭素を固定し、温暖化を1.5℃以下に抑えるために再生可能エネルギー生産を拡大することが、このようなことによる土地の変化で互いのスペースが侵害されることなく、可能であることがわかりました。
しかし研究者たちは、このテトリスのようなゲームには土地を保護し、異なるニーズ間の競争を制限するために必要な政策やインセンティブを含む、莫大で大胆な変化が必要だと述べています。
研究者たちによるこのような発見は、2100年までに気温上昇を1.5℃以下に抑えるために必要な変化の数々を示している石油大手シェルが開発したシナリオ「スカイ2050」と呼ばれる将来の気候予測に依拠しています。「スカイ2050」では、このパズルの大きなピースは地球上の未開発の土地を使って炭素を回収し、クリーンエネルギーを生産することであると指摘しています。これはつまり、その土地全体に太陽光発電所や風力発電所を拡大し、森林再生や土壌保護といった自然を活用した解決策によって土壌や生息地にある膨大な量の炭素を回収し、ある程度の量の炭素を回収・貯蔵することを意味しています。
しかし、これは同時に、この変化により地球上の人々を養うのに必要な十分な土地が残るのかどうかという疑問を研究者に提示していました。
その疑問を払拭するため、研究者たちは「スカイ2050」のシナリオデータを、MITが開発した統合グローバル・システム・モデリング(Integrated Global System Modeling)と呼ばれるモデルに反映させました。これは、さまざまなシナリオのもとで、世界が物理的にも社会経済的にもどのようになるのか明らかにするモデルです。
「スカイ2050」のビジョンによると、炭素貯蔵、農業、生息地は、地球の既に混み合った土地や地形でスペースを争うことになると予想できるかもしれません。しかし、このモデルでは、気候目標を達成するために必要な最大の変化(圧倒的に広い土地を必要とする自然を活用した解決策)でさえ、食料生産を侵害しないことが明らかになったのです。
興味深いことに、その理由のひとつは、自然をベースとした解決策が食料生産と重なり合うことで、農業が全体的により自然に優しい事業へと変化し、農業が気候変動の解決策の重要な一部となるからです。実際、このモデルによれば、2100年までに世界の耕作地の61%が何らかの自然を活用した解決策を導入することになります。その顕著な例のひとつがバイオ炭であり、農業における自然を活用した解決策としては最大の炭素隔離をもたらすことがわかっています。その他の例としては、保全耕うん、窒素固定植物であるマメ科植物の植え付け、アグロフォレストリーなどがあります。
気候目標を達成するためには、炭素隔離効果のある森林をより広い面積で保護し、森林再生計画に基づき森林を拡大する必要があります。このモデルは利用可能な土地があればそれも可能なことを示しています。
ただこの場合、食料にはどのような影響があるのでしょうか?研究者たちは、農業は多くの場合、自然を活用した解決策とスペースを共有することになることから、これらの変化による全ての影響を受けないことを発見しました。実際、バイオ炭のような気候対策の多くは、収量の増加に関係しています。しかし、これだけでなく、理想化された「スカイ2050」シナリオの下では、排出量の多い食料の生産には高いコストがかかるという市場の圧力が畜産を押し下げ、土地効率も向上させるため、耕作地はかつての牧草地だった土地にも拡大することができることもモデルによって示されています。
全体として、このような炭素と生物多様性においてポジティブな影響があったとしても、農作物生産は食料需要に合わせて増加することができ、2020年から2100年の間に一人当たり161%増加するとされています。
再生可能エネルギーとバイオエネルギーに関しては、研究者たちは太陽光発電所と風力発電所を強化する場合、世界の土地の3~5%が必要となり、生息地や農場を侵害することはないことを発見しました。
全体として、研究者たちの「スカイ2050」シナリオのモデルは、特に自然を活用した解決策が、年間最大6ギガトンのCO2を固定または除去することを示しています。これは、他の土地利用がもたらす二酸化炭素排出削減効果と相まって、今世紀末までに世界が気候目標を達成できる可能性があることを示しています。
食料生産とのバランスをとることは可能なものの、現状と将来のあるべき姿との間には大きな隔たりがあります。そのため、研究者たちは抜本的な改革が必要であることを示唆しています。その最たるものが、自然をベースとした解決策を農家に「大量に」、理想的には2050年までに迅速に導入する必要があるということです。そのためには、農家を巻き込むための政府のインセンティブが必要になります。さまざまな土地利用を支援する国や世界の政策も、それぞれの取り組みが競合しないように慎重に調整する必要があります。
研究者たちは、この巨大な偉業を達成する方法についての答えを持っているわけではなく、今後の研究で明らかにしていく必要があると明言しています。この研究の目標は、自然、気候、食料のいずれかを保護する必要があるという考えを覆すことです。「本研究の新規性は、土地を保護し回復させながら、人間の主要なニーズに土地を適合させることが可能であるという明確なメッセージを提供することにある」と研究者たちは書いています。
出典:Paltsev et. al. “Land-use competition in 1.5°C climate stabilization: is there enough land for all potential needs?” Frontiers in Environmental Science. 2024.
画像:Goodfon.com
DATE
December 11, 2024AUTHOR
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