プラスチック廃棄物を経済的に燃料化するためのカギを解明

ストローやビニール袋はリサイクルするよりも新しく作った方がずっと安価なのでリサイクルが進みません。高速かつ低温、そして低エネルギーのアップサイクリングプロセスは、この問題を解決できるでしょうか?

文:Prachi Patel
2023年3月2日

ストローやビニール袋、ヨーグルトの容器がリサイクルされない主な理由は、これらの製品を回収するよりも、一から作る方がはるかに安いからです。今回、これらのどこにでもあるプラスチック廃棄物を高品質の液体燃料に変換する費用対効果の高い方法が新しいリサイクル技術としてScience誌に掲載されました。

この低温を使う方法は、従来のリサイクルに比べてエネルギー消費量もコストもはるかに少なくて済むはずです。パシフィック・ノースウェスト国立研究所(PNNL)のInstitute for Integrated Catalysisの所長で、この研究の共著者であるJohannes Lercher氏は、「困難な廃プラスチックの問題を解決するには、使い捨てにするよりも、回収して利用する方が合理的だという点に達する必要がある」と述べています。

国連環境計画(UNEP)によると、人々が排出した何十億トンものプラスチックごみのうち、これまでリサイクルされたものは10%未満です。ストロー、スーパーのレジ袋、テイクアウトで使われる容器などの使い捨て製品の使用を禁止することは、その使用を減らすための最良の方法であると思われます。しかし、ボトルキャップ、パンの袋やラップなど、代替品がなかなか見つからないプラスチック製品からの廃棄物を減らすには、リサイクル方法を改善する必要があります。

これらの製品は、ポリエチレンとポリプロピレンという、世界で最もよく使われているプラスチックでできています。これらのプラスチックは強度が高く、高温に強いという利点がある一方で、これがリサイクルの際には悩みの種となります。これらのプラスチックに含まれる炭素と炭素の結合が強く、それを壊すのに非常に高い温度が必要となるため、そのプロセスにはエネルギーが必要となるのです。

また、炭素と炭素の結合が切れると、その結合から生まれた小さな分子はすぐに新しい結合を形成し、不要な化合物ができてしまいます。このような副産物は、再度分解する必要があり、時間と手間がかかります。

Lercher氏らは、100℃以下の温度で、副生成物を作らずにこれらのプラスチックを有用な燃料に変換する方法を開発しました。このプロセスでは、アルキル化触媒と呼ばれる新しいタイプの触媒を使い、酸性の塩化アルミニウムを主成分とする溶液で化学反応を起こします。

この反応条件では、プラスチックの炭素結合がばらばらになると同時に、新しい結合が制御された形で形成され、アルカンというガソリンに似た化合物が得られます。このアルカンは、燃料もしくは新しいプラスチックの原料として利用することができます。

この反応は1つの反応容器で起きます。反応時間はわずか3時間で、温度は70℃です。これに対し、既存のリサイクル技術では、通常、2段階の工程が必要で、さらに長い時間がかかる上に、200℃以上の温度が必要です。

研究者によると、この新しい方法は街頭のリサイクルではあまり回収・処理されない低密度ポリエチレン(リサイクルマーク・タイプ4)とポリプロピレン(同タイプ5)にも有効です。これらのプラスチックは、世界で年間3億6000万トン生産されるプラスチックの約半分を占めています。

研究者らが使っている触媒は、すでに石油産業で使われているものです。しかし、この技術が大規模に転用できるかどうかを知るには、さらなる研究が必要です。もし大規模にこの技術を活用できれば、使い捨てプラスチックを化学物質や燃料、高価値の材料に変換することのできるこのようなワンステップかつ低コストの技術は、プラスチック経済を循環させるために大いに役立つと、研究者らは述べています。

出典: Wei Zhang et al. Low-temperature upcycling of polyolefins into liquid alkanes via tandem cracking-alkylation. Science, 2023.