高層ビルのエレベーターを使った発電方法

高層ビルを「重力バッテリー」にするアイデア

エレベーターを利用して重い荷物を上下させることで電池よりも低コストでエネルギーを蓄えることが可能になるという斬新なコンセプト

文: Prachi Patel
2022年6月2日

重力から逃れるのは難しいことです。ではなぜそれを有効活用しないのでしょうか?研究者らは、重力を利用してエネルギーを貯蔵することで高層ビルを巨大なバッテリーに変えるという新しいコンセプトを提案しています。このアイデアにより既存のエレベーターと高層ビルの空きスペースを活用することができます。

再生可能エネルギーを使って、重い固体をビルの最上階まで運び、位置エネルギーとして効果的に蓄えるというもので、その固体が下に降りてくるときに、発電機を動かして電気を発生させます。世界中に高層ビルがあることから、このようなシステムによって毎時30〜300ギガワットのエネルギーを貯蔵することができると研究チームはEnergy誌に報告しています。

再生可能エネルギーが世界的に急増する中、電池に代わる低コストで長寿命のエネルギー貯蔵に対するニーズが高まっています。重力エネルギー貯蔵は、世界中で試されている新しいコンセプトの1つです。いくつかのスタートアップ企業が、クレーンや既存の鉱山坑道を利用して、重い塊を持ち上げたり落としたりしてエネルギーを貯蔵・放出するシステムを開発しています。

エレベーターは、エネルギーを貯蔵する場所がすでにあり、そのエネルギーが必要な場所に設置されているという大きな利点があります。世界中で1,800万台以上のエレベーターが稼働していますが、その多くが空の状態で使われていません。この間、再生可能エネルギーを活用できれば、エレベーターは湿った砂の入った大きなコンテナのような重いものを上まで持ち上げることができます。自律型トレーラーロボット(エレベーター)がそのコンテナを持ち上げ、運搬できるのです。

そして、電力が必要になったら、重いコンテナを下に落として、回生ブレーキシステムで運動エネルギーを回収します。回生ブレーキは、動いている車や物体から、熱になるはずの運動エネルギーを回収し、電気に変換します。電気自動車やハイブリッドカーによく使われています。

この論文の主執筆者で、また電気トラックを坂道で走らせ、エネルギーを蓄えるというアイデアを最近提唱したオーストリアの国際応用システム分析研究所(IIASA)のJulian Hunt氏は、「これは既存のインフラを利用して、エネルギー貯蔵という二次サービスを提供するという点で、現実的な選択肢となる。この技術は、都市部で電気を消費する場所の近くに分散してエネルギーを貯蔵できることから重要である」と述べています。

導入にあたっては、ビルの上下にコンテナを収納するための空きスペースがあることと、回生ブレーキシステムを搭載したエレベーターがあることの2点をクリアする必要があります。 Hunt氏は、現在、回生ブレーキを搭載したエレベーターを導入している建物はごくわずかであるものの、今後、世界中の多くの建物に導入されることが予想されると述べています。また、老朽化して交換が必要なエレベーターにも、回生ブレーキシステムを導入することができます。

Hunt氏はまた「ビルの高さが50m以上あり、回生ブレーキシステムを搭載していて、ビルの上下にコンテナを収納するスペースがあれば、大規模な導入が可能だ」と述べています。

また、この方法は毎時1キロワットあたり20米ドルから120米ドルとコストが低いという利点もあります。そのコストはバッテリーに匹敵するか、それより良いものの、エレベーターのエネルギー貯蔵は、ほとんどの場合、バッテリーと競合することはないとHunt氏は指摘しています。バッテリーのコストは急速に下がっており、送電網が対応できないような急激な需要に対応するための電力を素早く供給できます。一方、エレベーターのエネルギー貯蔵は、週単位で需給バランスを取るのに適しているためです。

Hunt氏は、研究の次のステップは既存の建物にこのシステムを導入し、システム全体の効率性と運用コストを試算することだと言っています。

出典: Julian David Hunt et al. Lift Energy Storage Technology: A solution for decentralized urban energy storage. Energy, 2022.